ログカラキ

音楽や漫画が好きな週末ロードバイク(Cannondale)乗りのブログ。

原田マハ「楽園のカンヴァス」

20世紀の美術界に大きな変革を与えたルソーとその絵画を題材にした美術史ミステリー。著者自身がキュレーター(美術館・博物館などで実際に展示品の展示、企画、運用を取り仕切る役職。作品を貸し借りする際の交渉も行う。)として美術館で働いていた経歴を持つ。

僕自身美術史には全くもって疎い為、恥ずかしながらルソーという人物名すら知らなかった。しかしどうやらこのルソーという画家はあのピカソにも大きな影響を与えたとか。この小説内の記述では、ルソーが絵を描き始めたのは40歳の時だという。遠近法も出来ていないバランスの悪い絵を当時の人々は大いに馬鹿にした。ろくな技法も知らない「日曜画家」と揶揄されたらしい。

そんなルソーの絵画も死後70年以上経った今では市場価値が非常に高いものとして取引されている。この小説はその作品群の一つ「夢をみた」を巡る物語だ。

岡山県倉敷にある大原美術館に監視員として働く早川織絵。彼女は幼い頃から父親の都合でパリで生活し、美術館を「友達の家」と呼ぶくらいに入り浸っていた。そして美術界の中でも若くして博士号を取得し、将来を羨望されていた研究者だった。しかし、ある事をきっかけにその第一線から退き、今では年老いた実母と高校生になる娘と暮らしている。そんな織絵の勤め先である大原美術館がルソー展を開催するにあたり、どうしても日本へ持ってきたい作品があるという。それがルソーの「夢」という作品。しかし、元々アメリカやヨーロッパにある作品を文字通り極東にある日本へ貸し出してもらうのは中々骨の折れる仕事だという。そんな中、ニューヨーク近代美術館のチーフ・キュレーターであるティム・ブラウンから、織絵が交渉の場に立つなら交渉を受けると連絡が入る。

そこから舞台は17年前に移る。まだ20代であった織絵とアシスタントの立場であったティム・ブラウンは、「怪物」の異名を持つコレクター・バイラーのある依頼を引き受ける為に邸へ招待される。その依頼とはバイラーの持つルソーの「夢をみた」という作品が真作か贋作かを判断して欲しいというもの。ただし、鑑定には作品を見るのではなく、ある1つの物語を読んで判断して欲しいという条件付きだった。そして優れた講評をした方にはこの「夢をみた」のハンドリングライト(取り扱い権利)を与えるという。

物語はルソーの半生について書かれたものだった。そこには年老いたルソーが恋い焦がれた相手であり作品のモデルにもなったヤドルヴィカやピカソも登場する。極貧生活の中で何とか作品を描こうとするルソー。絵だけでは食べていけない為ボンボン売やヴァイオリン教室も開いていた。晩年に描かれた作品が「夢」とされているが、「夢のあと」についてはいつ頃の作品なのか、そもそもルソーによる作品なのかも明確でない。そこで織絵とティム・ブラウンがわざわざ呼ばれた。

 

先ほど読み終えたのだけど、物凄く綺麗にまとまっている作品だった。「物語」の作者が意外だったけれど不自然さは全くなかった。解説にも書かれていたけど美術史とミステリーは相性が良い。

 

楽園のカンヴァス (新潮文庫)

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